中国の福州で眼科を生業としている英国人医師ソンダーズは、仕事で南方の島に呼び出された帰りに周遊を思い立ち、偶然出会ったラガー船の船長に近くの島まで乗せてもらう。船に乗っているのは人足を除いてもう一人、美形の若者フレッドで、船長によれば地元オーストラリアで何か事件を起こしたらしく、名士の父によって秘密裡に国外へ送り出されたものという。
一行は嵐を潜り、嘗ては香料貿易で栄えた島に辿り着く。ここで彼らは善意の塊の様なデンマーク人青年エリックに出迎えられる。一見凡庸であったフレッドが、エリックの人格に感化され、その理想主義に触れるに従って変化して行く様子が、ソンダーズ医師のシニカルで興味本位の観察を通して語られる。
医師と著者の視点を行き来しつつ、登場人物の性格や思考を綿密に描写して来る傾向にあるが、その人物というのがソンダーズ医師も含め複雑な性格をしているので、語り過ぎになることを免れている。寧ろ、登場人物の個性こそがこの小説を読む主たる楽しみであった。
展開の骨子に格別驚くべきところは無い一方、明快なクライマックスがあり決して退屈もしない。但し、フレッドの過去が最後に来て一気に語られるのには、そこに来てほぼ始めて現れる人物が大きな役割を担うせいもあって、別の短篇が始まった様な印象を抱く。
もう一つ苦言を呈するならば、これも終盤であるが、先に描写されたディテールの「意味」を登場人物が半ば解説してしまう箇所がある。種明かしをされるようで如何せん興が醒めた。
その様な結構の緩やかさもあり、必読の傑作という感想を持つには到らなかったが、凝縮された文体と、透徹した洞察に裏打ちされた佳作である。時折差し挟まれる評言にも感ずるところがあった。
0 件のコメント:
コメントを投稿