2011年9月10日

家政婦のこと

萌えない方のメイドさんの話をしよう。

仄聞するところによると、出張先の国によっては、現地で暮らすにあたってメイドを雇うのは、もう決まりごとの様なものだそうだ。いや、今なおそうなのかも実は知らない、少なくとも二十年ほど前はそうだったということである。「本当は嫌なのだが仕方なく雇っていた」という話を複数の人から聞いている。

ところでこの場合「メイド」という語を使うのが相場である様で、「家政婦」と言っていけないものか、「女中」なり「お手伝いさん」との違いはなんであるのか、もう一つ諒解していないのだが、ここでは慣習に従ってメイドと書くことにしておこう。

さておき、その様な出張経験のある知人から聞いた、そのまた知人についての話だから、これはもう随分出所が曖昧になるけれども、ともかく聞いたことを書いておく。

一つ目は、出張になった最初のころに小さな子供が二人いて、メイドにもその世話をさせていたという人の話。それから何年も同じ人を雇い続けていたので、もうすっかり家族の一員という風情であったそうで、子供の方でもよく懐いていたということだ。

それでいざ出張が終わって帰国しようという段になったら、子供の方でもメイドと別れるのが嫌で泣くし、ついにはメイドの方でも泣き出して、このさき給料は要らない、旅費も自分でなんとかして見せる、どうか一緒に連れて行って欲しいと言い始めたそうである。もとより無理なことであって、結局は別れて一家は本国へ、メイドは同地に留まったが、説得が大変で大いに弱ったという。

そういう事もあるのだろう。

二つ目、これは出張の終わり頃に小さな子供がいた夫婦の話だが、やはり一人のメイドをずっと雇っていたので、お互い家族の様に思っていたという点、先の話と同様である。

さてそれでやはり帰る段の話になるが、空港まではメイドと連れ立って来て、それから夫の方がどこへ行ったのやら知らない、戻って来るのを母子とメイドの三人で待っていた折、子供がトイレへ行きたがったという。

まだ幼少で、一人では行かせられないので、母はメイドにハンドバッグを預けて待たせ、子供に付き添って化粧室に入り、戻って来てみるとメイドはハンドバッグともども姿を消していたそうだ。ハンドバッグにはお金のほか航空券も入っていたので、途方に暮れてしまった、という話。

この話をしてくれた知人が所感を述べるには、「無論メイドの方では金品の入っていることを知っていて魔が差したのだろうが、航空券のことまでは知らなかったのだろう。また長年の付合いですっかり信頼していたメイドに裏切られたのもそれはショックだろうが、そういう誘惑に晒したのはメイドの方にとっても可哀想だよ」とのことであった。

そういう事もあるのだろう。

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