2013年5月10日

ARASHI

これが最近はやりのブログというものか……

註解つきのシェイクスピアとして定番らしい、Arden の『テンペスト』がブックオフにあったので、この機会にと思って読んでいる。

大体が劇というものは舞台で観るものであって、本で読むものでは本来ない。そういうことを特にどこで感じるかというと、本で読んでいると、登場人物の誰が誰やら、直ぐに分からなくなる点に於いてである。

舞台では顔や衣装や声で区別のつくものを、本で読もうとすると、台詞と名前の文字情報だけで整理せねばならないのだから、やはりそこは難しくなってしまうのではないか。

あるいは単に僕の記憶力が悪いだけかもしれない。そういうこともある。

以下は読書メモみたいなものだ。第一幕二場にして、既に解釈に悩む箇所に行き当たった。

http://shakespeare.about.com/od/thetempest/a/Magic-in-The-Tempest.htm

これなどはアカデミックな経歴を持つ人による解説らしいのだが、
Caliban is not considered by Prospero or Miranda to be human: “…A freckled whelp, hag-born – not honored with human shape” (Act 1, Scene 2)

カリバンはプロスペローからもミランダからも人間と思われていない。「…
人の形に与らぬ、魔女から生まれた、しみだらけの犬ころ」(第一幕二場)
とある。しかし、ここで根拠に引かれているプロスペローの台詞を、もうすこし前から引用すると、次の通りである。
[…] Then was this island--
Save for the son that she did litter here,
A freckled whelp, hag-born--not honour'd with
A human shape.
もし、上の解釈のごとく、"not honor'd with human shape" が "a freckled whelp" を修飾しているものだとしたら、一行目 "Then was this island" の was は何を主語とし、何を補語としているのか。

やはりネットで見つけた、ある現代英語との対訳では、this を指示代名詞と捉えて、これを主語とし、続く island を補語としていた。普通の語順に直すならば "Then this was island" というわけだ。しかしそれなら an island と冠詞が要るだろうし、そもそも「それからこれは島であった」というのは意味が通らない。それからもなにも、もともと島である。

つまり this と island を切り分けるのには無理があり、this island「この島」が was の主語であるのは確定していると言って良い。では補語は?

補語を取らない be の用法で、「存在する」の意味で使われている、という解釈をするならば、「そうしてこの島があった」ということになるだろう。だがこれも上と同じく、ここで語られているエピソードの以前から島は存在していたのだから、話がおかしくなる。

this island was a whelp「この島は犬ころであった」も、this island was hag-born「この島は魔女が産んだ」も意味が通らない。やはり、間に長い挿入を経つつ、this island was not honor'd と受動態を作っていると考えるよりほかにないのではないか。

この考えに基づいて、幾らか省きつつ引用部をパラフレーズすると、およそ次の様になるだろう。
Then this island was not honoured with any human shape, save for (that of) the son she bore here (=Caliban).

「その後、この島は人影を得るの光栄に浴していなかった。かの魔女がここで産んだ息子(カリバン)を除いては」
噛み砕けば「カリバン以外に人影は島から絶えた」と言っているわけで、「カリバン以外に」とプロスペローがわざわざ断っているのは、どちらかと言えばむしろ、プロスペローがカリバンを一応は人間に数えていることの証左になるのではあるまいか。

もっとも、わざわざ "human shape" と言っているのは、カリバンが姿の点で人間であるに過ぎないというプロスペローの評価を示唆しているのだ、とも考えられるかも知れないし、またそのいづれも深読みのし過ぎとも思える。

結局、色んな人が色んなことを言うので、僕にはよく分からん、という、いつも通りの無責任なところに帰着するのであった。